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ヒソカvsクロロ戦の謎。

冨樫義博の才能が枯れたのか?別の人が描いたのか?

先月26日に発売されたハンターハンター34巻。例によって1年ぶりの新刊となった。待ちに待った単行本だが今回は素直に喜べない。というのもこの巻の三分の二を占めるヒソカvsクロロ戦が全然面白くない上に違和感だらけだからだ。いったい冨樫はどうしたんだろうか。やる気がなくなってしまったのか。才能が枯れてしまったのか。あまりに過去の作風と食い違うところが多いので別人(アシスタント?)が描いたんじゃないかという可能性まで現実味を帯びてくる。作中屈指の強キャラ2人が主役で本当なら嫌でも面白くなるはずなのに、このヒソカvsクロロ戦に感じる違和感というのは何が原因なのか。

唐突な上になぜ天空闘技場なのかという疑問

キメラアント編が終わって本格的に暗黒大陸編に入るというところで一切導入がないまま始まったため、とりあえず除念の報酬の件を片付けて旅団とヒソカも暗黒大陸に連れてきたいしこの辺でちゃちゃっとやっておこうかなとでもいうような作者の意図が感じられた。そういう作者の顔が後ろに見えるような展開ほど興ざめなことはない。(興ざめと言えば単行本の最後の解説もひどく言い訳じみていてみっともない)。

そして対戦の場所が天空闘技場だというのもおかしな話だ。そもそもA級賞金首のクロロが公の場に出ること自体がありえない。

天空闘技場と言えばヒソカが7巻でゴンに放ったセリフで「次はルール無しの真剣勝負で戦ろう、命をかけて」というのがあった。これまでのヒソカの言動を知っていればヒソカが本当にやりたい決闘の舞台というのは少なくとも天空闘技場ではないはずだと思うのが当然だろう。どういう経緯で天空闘技場でやることに決まったのかというエピソードを入れて読者の疑問を処理しておくべきだった。

ヒソカとクロロの顔が別人になった問題

左上はヨークシンでのクロロ、左下のヒソカはGIの頃、一方で右のクロロとヒソカは新キャラですと言われても納得してしまうレベルで顔が変わっている

全体的に絵が雑というのもあるけどそれを差し引いてもこれはひどすぎる。全部アシスタントが描いたんじゃないかという説もあながち否定できないレベルの別人になってしまった。長期連載の漫画で画風が変化するということはよくあるけど下手なほうに変化するというのはあんまりないんじゃないだろうか。すでに登場している人物はこれまでの描き方で統一性を持たせたほうがよかったのに、やるのがめんどくさかったのか、あるいは本当に画力が落ちたのか、なんにせよこんな風になってしまった。本気でやれば全盛期ぐらいの絵がまだ描けると信じたい。

ヒソカはヒソカでその口調も相まってオカマのように成り果ててしまった。かつてGIで見せたヒソカの影はどこにもない。

スピード感0問題

「ビッ、ドゴッ、ドガッ、ドヒュッ」 … 迫ってくるコピー人形をさばくのに大忙しのヒソカさん

ハンターハンターにしろ幽遊白書にしろ、冨樫作品というのは戦闘シーンから何気ないやり取りまで自然で無理のない構図とセンスのあるセリフによって成り立っていたし、そういう「無理のない自然さ」が「冨樫らしさ」の大きな一部分をなしていたことは確かだと思う。

でも今度のヒソカvsクロロ戦ではどうだろうか。全体的に構図の流れがぎこちなくテンポが悪いというのが第一印象。たとえば19~20ページ、44ページ、50ページ、57ページなどはひどい。

戦闘シーン以外でもそうだ。36ページのテンポの悪さはいったい何だろうか。ヒソカがすごくバカっぽいし「死によってより強まる念・・・!!」とかいうのが下手したらギャグに見える。

やはりこの対戦の全体的な流れはアシスタントか誰か別の人が適当に考えたとしか思えない。というかそう思いたい。もし本人が描いているとしたらこのやっつけ仕事具合はもうハンターハンターへの思い入れが完全になくなってしまったということだろう。

セリフのセンス0な上日本語がおかしい問題

「爆発・・・!?血がやばい!? 」… テンパってカタコトになるヒソカさん。半開きの口が余計にバカっぽい

もともと冨樫漫画のセリフというのはよくよく読んでみると日本語としておかしいものが結構あったけどそういうのはすべて言葉選びのセンス、スピード感とテンポの良さで完全にチャラになっていた。しかし今回はセリフが冗長でセンスが全くなくなったうえにスピード感0となり日本語のおかしさが際立ってしまった。

そして今回の戦いでの一番の違和感と言えばヒソカがバンジーガムを使うときにいちいち「ゴムよ縮め」とか「発動」とか言うところ。技名を言うのは能力もののバトルでは当たり前だからいいけど、わざわざ「縮め」なんていう必要があるだろうか。これは「硬!!オーラよ右手に集まれ!!」というのがおかしいのと同じ理由でおかしい。つまりオーラというのは本質的に生命エネルギーで自身の一部として自在に使いこなせるはずなのにまるで機械に命令するかのように指令を出すのはおかしいということだ。普通の人間がものを取ろうとして手を伸ばすときに「右手よ、目の前のものをとれ!」と頭の中でわざわざ考えないのと同じで体の一部であるオーラがそのような指令を必要としないのは当然だろう。

顔のみならず内面までも別人になった問題

「戦は舞・・・!息を合わせないとね・・・♪」 … 言いそうで言わないはずのセリフ

まずヒソカ。ヒソカはハンター試験以来の重要人物で登場回数も多いのでキャラが変わることが何度かあった。例えばGIのドッジボールでのヒソカはまるで別人のように友好的になっていたけどあれはあれでヒソカが別の一面を見せただけだと思えば納得できたし、ヒソカの本質的な部分は失われずに一貫性が保たれていた。しかし34巻ではそのヒソカの本質的な部分、本当の意味での狂気のようなものが失われて、がんばって狂人を演じている凡人のような安っぽさが目立つ結果となった。

そして一番いやだったのはクロロが変に内省的な性格に変わってチープで薄っぺらいセリフをつぶやくようになったことだ。特にp.30の「人とは不思議なものだな・・・」とp.39の「人とは本当に面白いな」というこのふたつのセリフを見た瞬間、「クロロってこんなこと言う人じゃなかったのに・・・」と悲しくなった。あの頃のかっこいいクロロは死んでしまった。

「人とは不思議なものだな・・・」 … クラピカにやられて性格が変わってしまったクロロ

「動機の言語化か、あまり好きじゃないしな」 … ありし日のクロロ。このころはまだ薄っぺらい言葉を口にすることはなかった

旅団がメインだったヨークシンでのクロロと言えば何よりも団長としての器の広さと底の見えない強キャラ感を醸し出していた。それはセリフの一つ一つもそうだし、所作とか冨樫の絵のセンスによるものだったように思う。ヨークシンでのクロロの性格は自分の行為をいちいち振り返って考えるタイプではなかった。そういう意味で34巻のクロロが「人とは・・・」とかいう日本語的にもぎこちなくて浅いセリフを口にするのは本当に冨樫が考えたセリフなのかと疑いたくなる。もしかしたらクラピカにジャッジメントチェーンを刺されたことがトラウマになっていろいろと思い詰めた結果、性格が変わってしまったということなのかもしれない。いずれにせよヨークシンのころの魅力はすっかりなくなってしまった。

説明したがるクロロ

クロロがやたらと説明したがるというのもおかしい、というよりありえない。またヒソカがそれを棒立ちで聞いているというのもあり得ない。ヒソカがこんなやり方を素直に受け入れるはずがない。

それに過去の登場キャラを思い出してみれば能力を細かく説明するのはたいていその必要があるときだった。ゲンスルーにいたっては能力を説明することが発動条件として組み込まれていた。一方で今回の戦いで能力を説明する納得できる理由というのは見当たらない。栞を使う上での条件の一つとして説明が必要だったと考えることはできなくはないけども、説明する前にすでに栞でサンアンドムーンを使ってしまっているし、ほかに説明が栞の制約であることを示唆する描写は全くない。普通に能力を隠して戦ったほうがクロロにとって有利だしそうしない理由もない。なにより過去のクロロとの整合性がない。クロロvsシルバ・ゼノを思い返してみてもゼノが戦いながら推測するだけでクロロが自ら能力を明かすことはなかったし、手刀を見逃さなかった例の人とやったときもそうだった。除念後に性格が変わったんだと納得することもできなくはないけどやはりそこは一貫性を持たせるべきだっただろう。

しゃべりすぎ、説明しすぎ

今回の決闘でヒソカ、クロロの魅力が著しく損なわれたのは二人とも心理描写と口数が多すぎる上に変に理屈っぽいために底の浅さが露呈したためだろう。キメラアント編まではキャラクターの要所要所のセリフというのはたいてい必要最低限で余裕を醸し出していたために計り知れない器の広さと魅力を生み出していた。しかし残念ながらこの決闘では必要ないことまでしゃべりまくり、どこか小物臭が漂うキャラクターになってしまった。そもそも冨樫自身が論理的な話の進め方という点は大して得意ではないのに無理に理屈っぽく話を作ろうとしたのが失敗の原因となったと思う。

それにしてもアマゾンのレビューには驚いた。ぼろくそに叩かれているかと思ったら高評価レビューだらけで、彼らにはこんなダサい対戦が「頭脳戦」に見えるらしい。人間盲目になるのは怖いとしみじみおもった次第。連中が信者呼ばわりされるのは無理もない。

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